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二〇二三年十一月の句会より
凩の吹き込む峡にある奈落 中村恵美
青空の柚子を剥がして籠の中 杉森大介
大綿の風に蹴られて落ちにけり 武藤星江
茶の花や雨の優しきひとところ 葛原由起
冬帝や立坑櫓シルエット 藏本 翔
サンルーフ開けて見上ぐる冬日濃し 鳴戸まり子
目尻より微笑みを読む小六月 山田翔太
ビロードを纏ふなぞへや草紅葉 涌羅由美
根に力蓄へ枯葉落としけり 花川和久
落葉蹴りちらしてをさな巨人めく 椋麻里子
野分会 十一月の十句
今月の十句
二〇二三年十月の句会より
猿酒や森の命の一雫 奥村 里
スポーツの日や校庭に百の白 塚本武州
昔日を刻み秋日の石畳 中村恵美
朽ちてゆくものを弔ひ残る菊 武藤星江
雲に乗り天を駆けるやましら酒 野澤幸彦
皆出かけスポーツの日の大あくび 葛原由起
秋高し飛行機雲の交差点 椋 麻里子
松手入されて沁み入る入日かな 菅谷 糸
スポーツの日の上る旗光る楯 山田翔太
猿酒に月の雫の隠し味 荒井桂子
野分会 十月の十句
二〇二三年九月の句会より
一晩を削り続ける轡虫 松村史基
濁流の色の唐突秋出水 伴 統子
がちゃがちゃの湯舟に響く午前二時 秋山龍郎
高岩に巻き付きながら落つる霧 荒井桂子
コスモスの風にもまれて決まる色 武藤星江
日本は水に浮きをり秋出水 笹尾清一路
秋日傘思案の影の動かざる 涌羅由美
名月の山へと座して雲の波 杉森大介
秋出水あとに残りし大樹かな 木村直子
その声の無表情めく轡虫 進藤剛至
野分会 九月の十句
二〇二三年八月の句会より
東京の空の小さく霊迎 岸田祐子
すこやかに隠元豆のねぢれをり 武田優子
新秋を笊に盛り分け青物屋 酒井湧水
残照を曳く船笛の秋めける 中村恵美
迎火や無音の闇に気配ふと 山田翔太
隠元をくたくたにして鬱憤も 小寺美紀
野球部の西日へ干せるユニホーム 松村史基
一発にどどと始まる花火かな 荒井桂子
くちびるの皺に隠元豆ふれて 進藤剛至
迎火に影もうひとつ加はりぬ 武田奈々
野分会 八月の十句
二〇二三年七月の句会より
虚子の道学ぶ我らの夏座敷 涌羅由美
水澄空を回してをりにけり 松村史基
日焼して草の匂ひを付け帰る 杉森大介
湖の色森の色秘めラムネ玉 葛原由起
いかづちの響きて句座の締まりけり 荒川裕紀
少年の顔して射的場の夏 山田佳乃
姨の魂宿す大木蝉の声 花川和久
水音の中より生るる夏の蝶 相沢文子
万緑のうねりせり出し千曲川 井上大輔
ともに銃構へ湯町の涼風に 阪西敦子
野分会 七月の十句
二〇二三年六月の句会より
スコープの捉へてしまふ子鹿かな 松村史基
青空や一八の白一列に 伴 統子
黒南風やチョークの軋む五時間目 涌羅由美
蝙蝠や黄昏といふ波に舞ひ 菅谷 糸
一八を結び目として茅舎かな 吉岡簫子
すこしづつ寄る人の子も鹿の子も 阪西敦子
軒先へ押し寄せてくる茂かな 花川和久
花苔の照らす径も猫の道 椋 麻里子
一八や藁葺きを守る集落に 西尾浩子
眼を瞑りながら親鹿見てをりし 塚本武州
野分会 六月の十句
二〇二三年五月の句会より
天井の高さ見上げし五旬節 伊東法子
通り雨余花に魂宿したる 荒川裕紀
カーテンをそつと誘ふ若葉風 酒井湧水
消ゆるまで目で追ふ背中余花の雨 笹尾清一路
山法師白に始まる森の詩 涌羅由美
闇の中ペンテコステの希望の灯 塚本武州
青鷺の餌を見つけてより不動 荒井桂子
余花の雨遠野を暗く暗くして 岸田祐子
この夜を五色に濡らす河鹿かな 松村史基
絵硝子の緋のことさらに五旬節 武田奈々
野分会 五月の十句
二〇二三年四月の句会より
棘よりも小さく海胆の歩みをり 進藤剛至
さりさりとのの字におろす山葵かな 武田奈々
をちこちに小気味よい音夏近し 椋麻里子
黄塵に更けて日帰り旅終わる 花川和久
受け継ぎし急須にほどけゆく新茶 菅谷 糸
わさび田や水の階木々の屋根 吉岡簫子
島の子の素潜り海胆をひと突に 涌羅由美
スカーフのピンクひらめく春の街 渡辺真理子
海胆歩く光の届く海の底 石丸雄介
しろがねの水に山葵の色生るる 武田優子
野分会 四月の十句
二〇二三年三月の句会より
三月十一日弦の音空へ 武田奈々
ひとつづつ色の増えゆくはだれかな 笹尾清一路
大海の落暉帰雁の影をのむ 中村恵美
しばらくは苔に生かされ落椿 武藤星江
絵は夢を粒は現や種袋 塚本武州
みな海へ祈る三月十一日 西尾浩子
ものの芽のひとつひとつに詩心 涌羅由美
春光の家具なき部屋となりにけり 松村史基
鈍色の記憶三月十一日 荒井桂子
斑雪野の湿りて土の息吹かな 木村直子
野分会 三月の十句
二〇二三年二月の句会より
立春の硝子に触れてゐる目覚め 阪西敦子
汀子忌や車飛ばしてみたくなる 西尾浩子
色四分香り八分といふ梅見 酒井湧水
告白の二文字の遠く卒業す 杉森大介
汀子忌のペットボトルの緑茶かな 相沢文子
春立つやノートに記すひと文字め 武田優子
春愁は鏡の奥の眼差しへ 山田翔太
園庭にお迎え待つ子草萌ゆる 葛原由起
句に癒えて祈りに癒えて汀子の忌 進藤剛至
春立つや野山一水より弛ぶ 中村恵美
野分会 二月の十句
二〇二三年一月の句会より
大とんど校庭に龍立ちのぼる 中村恵美
満天の星にさざめく冬桜 荒井桂子
雪しまき戻ることさへままならず 武藤星江
齟齬もまた神の計らひ初句会 奥村 里
書に託す魂空へ吉書揚 山田翔太
寒禽に目覚むる山の気息かな 涌羅由美
五時までは経理係の雪女 松村史基
明け方の闇に溶けゆく冬桜 岸田祐子
待つことも参拝のうち初戎 塚本武州
左義長や裏の林の闇深し 田中利絵
野分会 一月の十句
二〇二二年十二月の句会より
餅配祖母の重箱のみぞ知る 菅谷 糸
指先に紙のぬくもり日記買ふ 花川和久
カラフルに塗り分けられし古暦 田中利絵
鋸の刃を替へることより年用意 塚本武州
料亭の一人娘や餅配 葛原由起
石垣の数多な歴史銀杏散る 藏本 翔
主なき部屋の残り香古暦 武田優子
おすすめのレシピを添へて餅配る 石丸雄介
嘘ひとつポインセチアの緋に沈め 中村恵美
へそくりをそつと剝がして古暦 酒井湧水
野分会 十二月の十句
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